環境デザインクラスの布施美子貴さんに卒展広報委員の谷川が取材しました。

布施さんは、粘土で広大な子どもの遊び場・空間を制作されています。

作品タイトル:子供の頃の情景

 
 


1回目 12月18日(火) 「けっこうスパルタ?」

制作現場にはじめてお邪魔します!
布施さんの落ちついたたたずまいとは対照的に、作品の形やスケールが大きく、力強く、そのギャップがとても魅力的です。

huse_1_1

huse_1_2

谷川:作品のテーマや発想は何ですか?

布施:最初は、自分の幼少の頃の記憶を頼りに「自分で遊びを発見する場所ってどんな所かな?」と思ってつくりました。
形をつくっていくうちに、ちょっとずつテーマが変化しているのですが、「小さいときに遊んでいた場所に、大人になってもう一回来たときに見える景色が変わってくるのか」ということを考えながら、つくっています。
大人になっても懐かしめるような場所をつくれたらいいなと思ってます。

huse_1_3

谷川:ぱっと見た瞬間に思ったのですか、普通の遊び場ではなく、かなり野性的で自然に近いような形ですね。ワイルド。

布施:そうですね。私けっこうスパルタなんで(笑)「登れるもんなら登ってみろ」みたいに思いながら、つくっています。

huse_1_4

谷川:なるほど。野性的で自然に近い「スパルタな」遊び場の方が、規則的な普通の遊び場より、子どもに人気がありますよね。
布施さんは小さいときに、木とかに登って遊んでいましたか?

布施:はい。山で遊んでました。植物の繊維を裂いて糸つくって、葉っぱ絞って、葉っぱの色に染めた糸とかつくってました。提供された遊びではなく、自分で遊びを見つける楽しみを知ってほしいという思いがあります。

huse_1_5

谷川:ごつごつした場所や曲線の形の場所など、さまざまな形がありますね。遊んでみたいです!

布施:正直なところ、手が赴くままってところもあります…。

huse_1_6

── 布施さんの作品のお話を聞いて、幼少のころに公園の木に登って秘密基地をつくったりするワクワク感や、遊びを自分で見つける楽しさを思い出しました。
 
 


2回目 12月21日(金) 「大きな作品と小さな道具」

── 布施さんが作品をつくる上で使用している道具について紹介したいと思います。大きな粘土の作品をつくるには、いったいどのような道具が必要なのでしょう?

huse_2_1

── まずは作業着。高校の時のジャージを愛用しているそうです。

布施:はじめは、ただもったいないから使っていたのですが、ナイロン製のもので油粘土の油が染み込まず、とても重宝しています。

huse_2_2

── 作品にたくさん使われる粘土について。
「レオン油土」のS標準硬度1kgを使用。この油粘土は、硫黄分を含まない油と天然土を原料につくられた最も一般的な油土で、耐熱・離型性にも優れ、石膏取り・シリコーンゴムの型取りなどで幅広く使われている油土だそうです。

布施:使い勝手はもちろん、削ったものをもう一回再利用できるのが、粘土の好きなところの一つです。

huse_2_3

── 次は、100均で揃えたという道具です。カッターやお好み焼きのヘラなど日常で使われている道具が、制作では違う使われ方をしているのがとても斬新ですね。

布施:別の用途に使う道具でも、「これ使えるな」って思ったら使ってみています。100均で買うことは、けっこうありまね。

huse_2_4

── 粘土を最適な状態で使うために役立っているものが布団乾燥機。粘土を暖めるために布団乾燥機を使うとは、驚きです。

布施:布団乾燥機は、ほどよい温かさがあって、ちょうど良い硬さを保てるんです。

huse_2_5

── 実際に道具を使っているところを見せてもらいました。

1. たこ焼きでつかう「千枚通し」を使って、粘土に線をいれる

huse_2_6

2. 直角になるようにヘラをいれる

huse_2_7

千枚通しとヘラを使うことで、凹凸のない滑らかな形を削りだすことができます。

huse_2_8

── さまざまな道具について紹介しましたが、布施さんが作品をつくる上で、とても多くおこなっていることは、自らの手で粘土を平らにしたり、整えたりという作業です。

布施さんの一番使っている道具というのは、「手」なのではないかと思いました。

huse_2_9
 
 


3回目 1月15日(火) 「成り立ち」

── 今回は布施さんに提供していただいた写真をもとに、初期段階から最近までの制作の流れと、そのとき考えていたことを話していただきました。

fuse_3_0

布施:今から思うと、階段部分などかなり強引な作り方だなぁと過去の自分に一言物申したい気分です。あの時はまだこれで納得していたのだから、不思議な気分ですね。

fuse_3_1

布施:破壊1度目の時ですね。ボリューム感を出したくて、とにかく分厚く粘土を貼り付けた続けていた時です。
この時も、手を動かして進めた分だけ破壊していた苦しかった時期です。

fuse_3_2

布施:先ほどの写真と同時期のものです。やはりひたすらに造っては壊しての作業を繰り返しながら模索していた時です。なかなか見えてこない先に不安だらけで、この作品が駄作にしか思えなくて気分が暗かったです。
粘土から逃げたい、なんてことすら思い始めていました。

fuse_3_3

布施:この部分、当初はすごく気に入って居たんです。しかし回りの造形と響かなくなってきて、ある日惜しみながらも破壊に踏み出しました。結果、今ではより気に入った場所に変わりました。

fuse_3_4

布施:ここにきてようやく直線を含む造形の魅力に惹かれ始めました。手前の円を半分に切ったようなこれは、お気に入りの空間でもあります。これはだいたい搬入の23日前ぐらいですね。

fuse_3_6

布施:これは、二度目の破壊後の姿です。壊したはいいものの、なかなか纏まらない形の運びに内心衝動に駆られて壊し過ぎたかなとハラハラしていました。これが会期一週間前くらいです。

fuse_3_7

布施:先ほどの写真と同様の時期で、こちらはそれまで苦手意識をずっと抱き続けていた直線や軸線を、自分の意思で取り入れられた時です。

fuse_3_8

布施:この時は形と形の繋げ方に違和感を感じ、なかなか手が動かなかった時期です。ただ繋げて撫で付けただけのような中途半端な造形しか造れなくて、ひたすら造っては壊すという作業を繰り返しながら迷走していました。
因みに、この一帯は会期の五日前くらいに殆ど全て剥し取り、作り直した場所です。

fuse_3_9

布施:よくやく壊すのをひかえ、造る事だけに意識を向けていた時です。そして、余白の扱いと水面の表現に困っていました。

fuse_3_10

──布施さんの制作の流れを見ていくと、壊して、作って、また壊してという作業が多かったようです。何度も何度も壊して作ってという2つを繰り返すことで、作品に深みがでてくるのだと思いました。
 
 


4回目 1月25日(金)「ラストスパート」

── 今回は、卒展まであと数日の布施さんの制作につい紹介したいと思います。

── 数日前よりも、格段にシャープな造形になっています。粘土の表面も滑らかです。

fuse_4_1

── 細部まで工夫がつまっています。中に入って遊んでみたくなります。

fuse_4_2

── 作品の全体図。さまざまな形が一つにまとまっており、とても魅力的です。

fuse_4_3

── コンセプトボードの作成。作品を撮影した写真をトレースしています。とても細かな作業です。

fuse_4_4

── こちらは、作品の中のさまざまな場所を紹介するボードです。全体図と各所の写真と説明文を載せるそうです。

fuse_4_5

── 最後まで細かな調整をおこなっていらっしゃいます。

fuse_4_6

── 複雑な造形のバランスをとるために全体を見ながら、細部にも目を向ける作業はとても大変だと思いました。

fuse_4_7

── 作品が完成しました!!!とても力強く、独創的ですね。

fuse_4_8

── とても大きな作品をつくっているのに、細部までしっかりとつくられています。そのため、斬新な造形でありながら、形にリアリティがあり、見る人を引きつける作品になっています。作品を近くで見た人は、きっと小人になって作品の中で遊びたいと思うはずです。
 
 


5回目 1月28日(月)・29日(火) 「たくさんの力」

── 今回は作品の搬入について紹介したいと思います。

搬入は1月28日の大学での積み込みと、1月29日の美術館での積み降ろし・組み立てという、2つの日時・会場にておこなわれます。布施さんの作品や、環境デザインクラス(4年生)・住環境デザインクラス(3年生)の方々の搬入を取材しました。

搬入1日目:大学での積み込み

── 大きな作品なので3つに分割し、この作品のためにつくった3段の台車に大切に入れられています。

fuse_5_1

── 自分の作品だけでなく、研究生・4年生・3年生で力を合わせ、みんなの作品をトラックに積み込みます。環境デザインクラス・住環境デザインコースの作品はどれも大きな作品ばかりです。

fuse_5_2

── 布施さんの作品もトラックに積み込まれます。

fuse_5_3

── 風の強い寒い日でしたが、笑顔の絶えない搬入でした。

fuse_5_4

搬入2日目:美術館での積み降ろし・組み立て

── 美術館の搬入口に止まったトラックから作品を降ろして、会場のなかに運びます。

fuse_5_5

── 作品を支える土台を設置します。

fuse_5_6

── 専用の台車の作品を固定していた木のネジを抜き取り、解体していきます。

fuse_5_7

── 1つ目を土台の上に慎重に置きます。

fuse_5_8

── 台車の解体作業が終わり、3つとも台の上に置くことができました。

fuse_5_9

── 1つにつなげるために余分な粘土をそぎ落とします。

fuse_5_10

── 3つに分かれていた作品が無事に1つにつながりました。

fuse_5_11

── 表面をヘラや手で平らにし、つなぎ目を無くします。

fuse_5_12

── 土台が見えないように、塗装したパネルを貼ります。

fuse_5_13

── 細かな調整をおこなっていきます。

fuse_5_14

── 展示用の照明を設置し、実際に展示させる状態にして、完成にむけて作業を進めていきます。

fuse_5_15
 
 


6回目 1月30日(水) 「完成 ? それとも…」

── 今回は、完成した布施さんの作品のコンセプトや、卒展会場でおこなわれた作品の合評風景をご紹介します。

── ついに作品が完成しました!制作現場ではなく、卒展会場で布施さんの作品を見ると、あらためて大きくて存在感のある作品だと思いました。

fuse_6_1

<作品コンセプト>

『子供視力』

成長するにつれ、視力が低下するように子供の頃にみえていたものがみえなくなってゆく。
知らぬうちに失っていた子供の目線。
それに気付き目を凝らしてみても、今の私にはもう同じものは見えない。
同じ場所で同じ季節に、同じものを見ているはずなのに、あの頃ほどの鮮やかさは見出だせなくなっている。

それに物悲しさを感じたとき、私は目を閉じてあの頃を追憶する。
浮かび上がる矛盾だらけの情景は、写真で捉えたようにはっきりと色や輪郭を写し取ったものではなく、とても不確かなもの。
けれど、それは子供の頃の視点で捕らえた今はもうみることの出来ない情景。
感性や視点が変わりゆけども、記憶に残る情景はそのとき感じたままのかたちで在りつづける。

子供の頃の情景──それは、唯一残るあの頃の自分が感じた世界の幻景。

『子供の可能性』

過度に守られた環境で遊ぶことによって、子供は己の能力を知る機会を失っている。
何が危険で、何が安全なのか。
何ができて、何が出来ないのか。
遊ぶことは、可能性を模索すること。

五感を研ぎ澄ませ、危機管理能力や判断力を身につける機会。

── 作品の横の壁面には、作品コンセプトを載せた「コンセプトボード」が設置されています。

fuse_6_2

── 午後からは環境デザインクラス(4年生)・住環境デザインコース(3年生)の合同合評がおこなわれました。布施さんの発表は最後から2番目です。緊張しつつも、しっかりと作品への思いについて話されていました。

fuse_6_3

── 合評の中で何人かの先生に「これだけ大きくて完成度の高い作品なら、ぜひとも樹脂で型取りをしたほうが良い」と薦められていました。ですが、布施さんは「型をとるなら、もっと良くしてからしたい」とはっきりと宣言して、先生達を「まだやりたいの!?」と驚かせていました。布施さんの作品への探究心の深さに、合評を受けていたみんながびっくりしていました。

fuse_6_4

── 写真が苦手だという布施さん。環境デザインクラスの方と、住環境デザインコースの方に協力して(布施さんを笑わして)いただき、なんとか笑顔の布施さんを作品と共に撮影することができました。

fuse_6_5

── 布施さんにとってこの卒業制作展の作品は、ここで完成ではなく、まだ途中段階なのかもしれません。新たに芽生える制作への探究心が、すでに布施さんに宿っているようです。
 
 


取材
総合領域 2年 谷川智美